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2024年6月24日

舞台「Medicine メディスン」感想という名の…?(注!ネタバレあり)

舞台「Medicine メディスン」を観る(ネタバレ含む)

この舞台を観劇する前の予備知識としては、主人公が精神病の患者であり、舞台は彼がいる施設の一室であるらしいということだけ。
舞台の演出を手がける白井晃氏の作品は高橋一生の一人芝居「2020」をBS放送で観たのみで、抽象的で斬新な演出と観る者に解釈を委ねる印象がありました。
その印象のまま「Medicine メディスン」を観たわけですが、やはり思った通り、一度で理解するには難解な作品。感じたままを書きたいけれど、全体の輪郭が曖昧で、演出の意図も気になって考えてしまう。
個人的にはそんな印象が残る作品でした。

小劇場「シアタートラム」で観る醍醐味

「シアタートラム」という劇場は小ぶりな造りで席数も230足らず、今回は席も舞台から3列目という近さ。
富山えり子さんと奈緒さんの、場の盛り上げ方に長けたコミカルでエネルギッシュなやり取り。
田中圭さんの視線の泳がせ方や指先の神経質そうなさま、感情を抑えて抑えて、そして抑えきれなくなってしまった時の感情の暴発。
そういった演者の息遣いや瞳の輝く様など、浴びるエネルギーもダイレクトに伝わってきました。その一体感が小劇場の面白さなのでしょう。
(目の前で田中圭さんが着替え始めたのにはびっくり👀)

今回も長くなりそうなので、感想の前にわかりやすく舞台を図解してみました。

ジョンとメアリーとメアリーとドラマー。演じるのは3人だけ。

とある施設の多目的ルームのような場所に、着替えを持ったパジャマ姿のジョン・ケイン(田中圭)が現れる。今日この部屋で行われることは、彼にとってはとても重要なことのようだ。その結果如何によっては外に出られるのかもしれない。そんな期待を滲ませるジョンの目に、お祝いパーティをしてそのまま散らかった状態の惨状が映る。これから自分の大事な時間が始まるというのに、この有様はなんだ。とでも言うようにイライラしながらも片付け始める。

そこへ、どこからともなく「調子はどうですか、ジョン?」と男の声が聞こえてくる。その呼びかけに戸惑いながらも落ち着きを取り戻し、そのまま舞台端に用意された狭いブースに腰掛け、ヘッドホンを装着し、それと同時にジョンの気配は途切れる。視覚的には存在するのだけど、存在しないかのように気配が消えるのだ。

そしてジョンの意識から隔絶されたかのような舞台に二人の女性が現れる(老人に扮したメアリー1(奈緒)と、ロブスターの着ぐるみ姿の役者のメアリー2(富山えり子))。そして一人のドラマー。この3人はどうもジョンのセラピーのために施設に呼ばれたようだ。メアリーズ(ジョン命名)はジョンが今までの自分の人生を書き起こした台本に沿って、時には両親、時には初恋の少女、同級生、施設の職員、施設の中で知り合う女性などを演じていく。ドラマー(荒井康太)はその台本の時々において、ジョンの心情を表したり、揺さぶるような音を演出する。

ジョンに施されるセラピーとは

劇中ではドラマセラピーとなっていましたが、軽く調べたところ、このような取り組みはどちらかというとナラティヴ・セラピー(物語療法)と呼ばれる療法に近い…と思ったけど、どうやらそれとも違う…

なぜならナラティヴ・セラピー (narrative therapy) は、患者が自分の体験を物語として語り、セラピストはその物語を共有しつつ、エピソード一つ一つを紐解き、意味あるものとして物事の捉え方を変えて再構築する(ざっくりと噛み砕いたつもりですが、やはりわかりにくいので詳しくはこちら)といったものらしいのだけど、なぞるだけで深掘りしてはいないから。 (ちなみに、ドラマセラピーとは他者の視点に立って演じることによる心理療法のことだそう。ジョンは他人を演じてはいない)

明るい曲をかけたりコミカルに接しながらジョンを促し台本を強引に進めていくけれど、その物語は不条理に満ちている。両親に愛されない幼少期、村で噂になるほどの母の奔放な振る舞い、そして学校でのいじめややっとできた友人の裏切りジョンの心は次第に追い詰められて行く。愛されることも望まない、ただ存在しないもののように過ごしたいそんな思いに辿り着くまでの物語をただなぞることは、心の瘡蓋を無理やり剥がす行為に似ている。これは治療と呼べるのか

対照的な二人のメアリー

劇中でメアリー1はこんな噂を口にする(ジョンはまたもブースに篭っている)。

「私たちのような仕事をしていた女性が、ある日突然来なくなくなったんだって」「私心配で…」

私たちのような仕事=役者であるのか、セラピーへの出演なのか。もし後者であるなら、自分たちはこのまま続けて大丈夫なんだろうか、このセラピーは本当にジョンのためになる? 自分もどうにかなってしまうんじゃないか、とそうメアリー1は思ったのかもしれない。メアリー2は気にしすぎたとでもいうそぶりを見せるが…

ジョンを語る台本は演じるメアリーズの心理にも次第に影響を与え始めます。
最初は楽しく場を盛り上げ親しげな様子だったメアリー2は次の予定が控えているからと、とっとと仕事をこなして切り上げるべく無理やり台本を押し進める。台本を深掘りすることで、噂の女性のようになってしまうのが怖かったのかもしれない。ジョンの気持ちはお構いなしで、ついには台本のシーンを飛ばしたりとなりふり構わない強引さを見せる。そこへジョンの心の傷を抉るような芝居の内容も重なり、ジョンは感情が爆発して半狂乱になってしまう。するとメアリー2は任務完了とばかりに報告の電話を入れ(相手は冒頭でジョンに語りかけた男=担当医?なのだろうか)、その場を去っていく。
見守っていたこちらは、このセラピーが癒すことが目的ではなかったのかと愕然となります。

方やメアリー1は途中からジョンの境遇に同情するようになり、次第に彼の心に寄り添うようになります。メアリー2が去った後も、最初は台本をなぞって演技していただけだったのですがが(演じている間は登場人物の声は吹き替えで流れていた)、次第に自分の声で台詞を語り出し、終いには自分の心からの声をジョンに届けます。

不思議な演出。その解釈は人それぞれ

このメアリーズの対比は、舞台の演出や仕掛けなどによっても表現されていたように思います。
メアリー1が扮していた老人の衣装にも意味があるように思え(理由は後述)、メアリー2が着ていたロブスターも、自己を守る甲羅とジョンの台本を容赦なくカットしてしまう行為はハサミを連想させます。
装置で言うと、舞台の奥にガラス張りの小部屋があって(最初の図参照)、メアリー1はそこになんの抵抗もなく入れるのに対して、メアリー2がそこ入ろうとすると拒絶するかのような逆風に見舞われる。恐らくその小部屋はジョンの意識を表していて、ジョンの母を演じそして自由奔放に自分が見た(少々下品な)夢を語り、ジョンの存在を軽んじるメアリー2だけ拒絶し、抵抗を見せていたのではないだろうか。
それから時折ヘッドホンをつけることで外界への意識を閉じる様子、どこからともなくジョンに語りかけてくる声。
そして、吹き替えの音声はジョンの記憶の中にある声が脳内で再生されているだけなのではないか?(セラピーに声だけ別録りなんて予算があるとは思えない)

施設の一室を見せつつもジョンの意識内も併せて見せる、二重構造のような、不思議な空間づくりをしているようでした(何せ明言されるものがほぼないので、想像の域を出ません)。
もはや現実なのか、妄想なのかその境界ですら曖昧で、観る者の足元が定まらないまま話は進みます。

ラストの受け止め方も、人それぞれ

そしてクライマックスで流れたジョンの声色から、実はジョンは年齢的には老人であるらしいこと、今までも同じようなことが繰り返されずっと施設で過ごしてきたのだろうことがわかってきます。

そんなやるせなさを感じる中、ラストシーンではジョンとメアリー1が心を通わし、ジョンは安らぎの表情を見せるのです。
メアリー1はまた会いにくるのだろうか、もしかして同じ籠の鳥になってしまったのだろうか。
結局ジョンは施設から出られることはなかったが、救われたことになるのだろうか。
タイトルであるMedicineとは、このひと時のことを指すのだろうか。
人生において人との関わりは、心を病ませてしまうような毒にもなり、また今回のように薬にもなれば劇薬にもなりうることをこの舞台は伝えたかったのかもしれない。

…と、なんともいえない余韻が残る、そして彼らのその後は見届けた人たちの心に委ねられる、そんな終わり方でした。
観劇直後、友人たちと交わした内容も
「ねぇ、最後の意味わかった?」「これは一度じゃ把握できないわ」「演技が凄かったー!」

こんな感じ。

 

なので、内容を咀嚼するために長々と綴ってみたわけですが、あれ?
これもブログの名を借りた
『セラピストのいないナラティブ・セラピーもどき』なのでは?

最後まで共有してくださる方が居たらいいのですが(笑)

追記

舞台のパンフレットに載っていた、作者エンダ・ウォルシュからのメッセージには

「お互いに理解しよう、耳を傾けようとする思いやりが大事(要約)」とありました。

それこそがMedicineなのかも。

 

 

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デザイナー

fukaminato

猫のために生きてますが、ネットがないと生きていけない

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