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2024年6月10日
九段理江「Schoolgirl」は太宰治「女生徒」の令和版というけれど(感想・ネタバレあり)
ここ最近、九段理恵さんの小説にはまっています。
九段理恵さんといえば、『東京都同情塔』で第170回芥川賞受賞した作家さんです。
『東京都同情等』を最初に読んで感想を書きかけたのですが、面白い要素が多すぎてどうにもまとまらなかったので
次に読んだ『Schoolgirl』の感想を先に書きます。
文藝春秋 紹介文
芥川賞候補作!新鋭が鮮やかによみがえらせる、令和版「女生徒」
新芥川賞作家の原点。第73回芸術選奨新人賞受賞作。
どうして娘っていうのは、こんなにいつでも、
お母さんのことを考えてばかりいるんだろう。
社会派Youtuberとしての活動に夢中な14歳の娘は、
私のことを「小説に思考を侵されたかわいそうな女」だと思っている。
そんな娘の最新投稿は、なぜか太宰治の「女生徒」について――?
引用元:文芸春秋BOOKS
令和版「女生徒」、
太宰治の「女生徒」は私史上2番目位に好きな小説です。
「Schoolgirl」という題名からしたら、主人公は14歳の娘かと思うじゃないですか
でもSchoolgirl はほぼお母さんからの視点で書かれています。
「お母さん」の夫は外資系のにお勤めで、家族3人でタワマンに住んでいて、何不自由ない幸せな専業主婦、小説が好きで夢みがちでよく妄想のような夢を見ていて、娘のことを「あんなに賢い子はいない」と思っています。
「娘」はインターナショナルスクールに通う女子中学生で社会派のYoutuberをしていて「お母さんは空っぽだから」とか言います。
P7
“あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い。”
ここは太宰治の「女生徒」の書き出しと全く同じ文章ですね。
最初の辺りはお母さんは夢の中で「女生徒」と同一人物になっているようです。
大事なお母さんにいろいろしてあげたいと思っている話や、下着の刺繍のことや、眼鏡のこと、虚無のことも書いてあるので。
現実世界の話になってからは
AIスピーカーと話すお母さんの様子がいかにも現代ぽさを表しています。
読み進めていくと、強烈なくだりがあります。
p18
“「そうだよ、そんなこともしらないの?お父さんの会社がやっているのはグリーンウォッシングなの。お母さんはよくもまぁ、毎日毎日そう能天気でいられるね。お母さんは自分さえ気分良く1日を過ごせれば、それでいいと思っているんでしょ。この世界がどんなに汚い欺瞞に支配されているかも知らないでさ。あなたたちのような無自覚な大人がやりたい放題やってきたツケを、私たちの世代が払わされるんだよ。いい加減目を覚ましなよ。お母さんが知らないだけで、現実はひどい形をしてる。生きていけないくらいひどいんだよ」”
!!!
これを読んでグリーンウォッシングという言葉を初めて知りました。
もし自分がZ世代だったら当然持ってしまうであろう怒りでしょう。
『東京都同情棟』にも現代の「偽善」とか「欺瞞」というテーマがかなり練り込まれていました。
p76
“「小さな説がお気に召さないなら大きな説でもいいよ。たしかにニュースは小説よりも大きな支持を集めているみたいだし。小説よりも影響力を持っているという意味では大説と呼んでいいかも。」”
娘は小説は作家の妄想で嘘だから意味がないと言い、それに対してお母さんは
小さい説と大きい説は大して変わらないと言います。
小さい説=小説
大きい説=戦争など実際に起きたこと
お母さんはここで、100年前の戦争は普段は思い出したりしないのに
100年前に書かれた小説(女生徒)は今もあなたも読んでるから重要度は大して変わらないじゃないと言っています。
(°0°)!!
これをテレビのコメンテーターが言ったとしたらひどくつっこみを入れられそう!
これって小説家である九段理江さんが思っていることをお母さんに言わせたのだと思います。
こうやって世の中のことや、表立って言ったら正論好きの人に口撃されそうなことを
面白い(Interesting とFunny両方)表現で書いてくれるところがこの作家さんの大好きなところでもあります。
それで
娘はお母さんのクローゼットから「女生徒」を持ってきてYoutubeで紹介します。
p79
“こうして本を逆さにして振ると、紙からお母さんがばらばら零れ落ちてきそう。”
なんて可愛い表現なのでしょう。
結局どんなに時代が変わっても娘がお母さんのことを思ってしまうのは変わらない、と、
少しほっとするようなことも言っているのでしょうか。
「Schoolgirl」は「女生徒」の令和版なのかな?に関しては、
そこまで作家さんご本人も「女生徒」とロジカルに結びつけようとか
辻褄合わせようとか思っていないような気がします。
きれいに辻褄合わせるよりもある程度自由に書いた方が読者もご本人も面白いと思われているのではないでしょうか。
BRUTUSのインタビューでも「小説に限らず、創作というのはカオスなものだと思うんです。」と仰っていましたので。
参照:https://brutus.jp/riekudan-music/
最近のジブリ映画もカオスだなと思いますし。。
「Scoolgirl 」は、お母さんと娘、という2人を登場させていて
100年前よりも現代の方が多くの人が感じているであろう
世代間ギャップも現していると思いますが、、
心の無秩序な揺れ動きを表現しているところは「女生徒」ぽいと思います。
世代間で、スピード感も思考していることもすごく違うけど、変わらないところもあるよ
という感じ
なのでしょうか。。
同じ本に収録されている「悪い音楽」もとても面白いです!
デザイナー
takayama
ひらめく事、大胆なデザインが得意
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